店主、考え中。
店主の宗裕は、“今後も店の営業を続けるか?”を、正直なところ悩んでおります。
日本で唯一の《袴式和服》の専門店である〈和次元 滴や〉は、「袴式和服の開発を進めるため」を、ただひとつの目的として運営してきました。 これまでの18年間に、特許を4件、商標その他の製品に関わる知的財産権を8件ほど取得し、ひたすら製品開発に邁進してきました。 ’20年には、当店の製品が ロンドンのV&A博物館に収蔵され 展覧会も開催されました。 また 当店の袴式和服が 世界遺産・二条城の制服として採用されています。 店のラインナップも、独自開発したアイテムが少しずつ増え、全て オリジナルの製品で埋め尽くされています。
そこで、4年ほど前からは、開業時より構想を温めてきた“帯を使わない袴式和服”(開業当初 “和次元“と仮称)の開発に着手し始めました。 ところが、コロナ禍により、その開発が 遅遅として進まない状況になってしまったのです。
女性モノを中心に動くアパレル市場にあって、女性モノ、洋服を一切扱わず、さらには 和服の中でも“着物”すら置かずに、“袴”の専門店として運営してきた理由は、ひとえに「袴式和服の開発」に集中するためです。 街を歩いていて袴姿の男性に出会う確率を考えれば、まるで 電車用の路線しか敷かれていない首都圏に 蒸気機関車を走らせようと夢見るが如くに、無謀な試みです。 最初の数年は、平日はサラリーマンをしながら製品開発し、土日に店を開ける…という生活でした。 家庭や周囲を犠牲にし、ご協力ご指導を仰ぎつつ、全精力を開発に注いできました。 子供達(特に下2人)には、家族旅行に連れて行ってもらった記憶も無いでしょう。 古くからのお客さん、ベテランの職人さんには、無数のご意見やご感想を聞かせていただきながら、改善に改善を重ねてきました。 これまでのご縁と奇跡には、いくら感謝してもし切れません。
ところが、現在の様な経済状況に至っては、店を運営・維持すること自体が、逆に 開発を阻害し遅らせる原因となってきました。 ようやく立ち上げた袴式和服専門の縫製所でも、職人さん達が違う製品を縫っています。
そこで 考える訳です。 これ以上、袴式和服の開発のために、周囲を巻き込んで良いものだろうか…と。
いつも考え続けてきた思いが 脳裏をよぎる訳です。 開発が止まった時が、店を閉める時だぞ…と。