2019AUTUMNCOLLECTION

バッキンガムに したたり合わせ

肩から背にゴブラン織の切り替えを配した小袖と、鈍い赤の袴が印象的なコーディネート。

粗い織り目で ざらついた黒い小袖には、ベースのコットンに アクリル等を織り込んで光沢を持たせている。 それが 荒々しさだけでなく、絶妙な洒落感をも纏わせて、アバンギャルドな雰囲気を作るのだ。 何より、目を引くのは肩から背にかけてヨークのように、大胆に配されたロンドンをモチーフとしたゴブラン織である。 共衿先の赤と袖口布のゴブラン織にも小気味良い贅沢さがある。

一方、鈍目の赤の袴は、ピーチスキン加工を施した微起毛のある表面なので、光の反射が弱められて赤を鈍く映し出してくれるのだ。品質は 主に綿なので、着慣れるほどに 身体にも馴染んでくることだろう。

上下が黒と赤で表現され インパクトは強いが、バッキンガム宮殿の衛兵の如く、洗練された男らしさを漂わせて、野暮ったさがない。

八咫烏の風土ローブ

ラインストーンの八咫烏が、艶のある黒の中に羽ばたく風土ローブ。

ラインストーンとは、ご存知の通り ガラスやアクリル樹脂などの表面にファセット・カット（宝石の加工法）を施し、ダイヤモンドのような形に似せたデコレーションパーツのことだが、今回は 一般的に衣服への加工に多く用いられるアクリルストーンを使用している。

八咫烏は、大きさの異なる３サイズのストーンで表現され、黒い表地に付着させているので シルバーに見えるが、ストーンの色は黒である。それを 工業用のプレス機で圧着加工するのだ。

表地は、高温で圧着するのに最適な綿だが、光沢コーティングを施してある。レザーのような表情も覗かせて 退屈させない。加えて 薄く、裏地を付けても軽いのだ。

シルバー×黒のストライプを走らせた裏地にも、ギラついた魅力が光る。風を孕む袖口や、フードを下ろした後ろ姿でのアクセントにもなり、遊び心が溢れている。

只者ではない雰囲気を漂わせるのは、何人もの職人達の細かい技が注ぎ込まれた結果なのだ。

芥子を袖に したたり合わせ

怪し気な芥子の柄を 袖と衿にのみ配した小袖とブラックデニムの袴とのコーディネート。

袖先と衿には細かい線で描かれた芥子の花、身頃には一見ヒョウ柄に見える茶＋黒のまだら模様をと 染め分けられた小袖は、所謂「ぶっつけ」と呼ばれる柄の配置で、妖艶ながら気高さも漂わせている。

柄ゆきにばかり目が行くが、実は しなやかで薄手のウール素材で、プリント・ウールという素材の珍しさも特徴。袖裏等に木綿の裏地を添えて、シルエットにハリを保たせ、細部の意匠のアクセントとしている。

底光りのような鈍い光沢のブラックデニムの袴も、時折 ネップを覗かせる個性派である。硫化染めなので、厚みの割に柔らかさを保ち、洗いが効いてくると色落ちある風合いも楽しめる。

大胆だが技ありの小袖には 芥子という怪し気なモチーフ、経年変化していく袴には 底光りする黒と、男の危なさをガツンと匂わせる組み合わせなので、ある程度は大人にならないと着こなせないだろう。

斜塔を背負う 和慈羽袖

ピサの斜塔をモチーフとしたゴブラン織を背中に大きく配した和慈羽袖。

表地のベースは、深いグリーンのトランスグレンチェックのウール素材だ。 格子状に走る赤いラインの方に目を向けがちだが、濃グリーンの中には細かい黒のグレンチェックも敷き詰められているのだ。 表情に微かな立体感があり上品で、柔らかな肌触り。背中のゴブラン織も細密で、ピサの斜塔の描写は美しくリアルである。 前の衿にも同じゴブラン織を配して、後ろ姿への伏線とした。

多くの方々から どのような構造なのか？と不思議がられる和慈羽袖は、特許製品だ。 大きな羽の様な袖を持つ羽織の プレーンな形態から、ボタンを外した大きな袖を肩に掛けることで、変幻自在な着こなしと、それによって生まれる美しいドレープを楽しめる。

そして、ダークブラウンの綿の裏地は軽く柔らかで、変わり織の表情が表地との釣り合いを保ちつつ、表の上質さを引き立てている。 さらには脇ポケットなど、使い勝手の良い工夫も随所に凝らしてある。

知性と個性がせめぎ合っているような きちんと感、羽織としてもコートとしても使える万能性、洋装をもカバーする合わせやすさと、実りの多い和慈羽袖に仕上がった。 羽織紐には、茶蝶貝のシェルビーズや マーブル・ルーサイトのヴィンテージビーズで仕上げた かなめ玉・フックを、ノーブルにコーディネートしている。

段継ぎデニムのローブ

黒と藍のデニムを交互に、横段に継ぎ合わせた袖なしのローブ。

２色のデニムは、共にしなやかな綿素材なので特に珍しくはない。しかし、継ぎ合わせて生地にする段階で、手の込んだ仕事が必要なのだ。 ここでは、色違いのデニムを、交互に瓦のように重ねながら継ぎ合わせている。継ぎ合わせる際には、一方の生地の断ち切り端を表に見せたままだ。

こういう、一見 大雑把な表情を作り出すためには、その裏側では丁寧な仕事をしておかないと、製品としての品質を維持できないものなのだ。 このローブを仕立てるにおいても幾つかの方法があるが、今回は 水溶性の芯地を使っている。 仕立て上がるまでは生地の安定性が欲しいが、デニムの総裏仕立てであることから生地は分厚くしたくないので、洗うと溶けて無くなる芯を付けていた。 当然、仕上がっている現段階では芯は消えている。 そういう見えない仕事によって、粗削りな表情が製品に取り込まれるのである。

そんな力強い表地の表情を裏打ちするため、内側にギラついた魅力が光る シルバー×黒のストライプを走らせた裏地を合わせている。

また、表素材の迫力を最大限活かすフォルムとして、創業当時のスタンドカラーのローブをデザイン修正して再復刻している。 決して派手ではないが、交互に配した２色と、その間に見える生地の断ち切り端が、底力のあるボーダーとなって目に迫ってくる。 着れば着るほど味わいも増すので、ヘビーユーザー御用達のローブである。

ナイルの黄金を したたり合わせ

グリーンに金彩のように箔プリントされた小袖と、ＧＯＬＤデニムの袴とのコーディネート。

小袖は、ややザラついたグリーンの木綿に、古地図の方位記号・ゾウ・シマウマ・ワニなどのサファリ柄を金色で箔プリントした素材で、適度な厚みとハリがあり着心地が良い。グリーンの上に金・単色の線描がほの明るく広がる様は、地味ではないが潔い。

印象的なテキスタイルだが、特許製品である小袖では 補正の要らない設計や、機能性を追求した裾のカットやポケット、袖口や共衿先の細工と、すっきりとしたシルエットを追求しており、あわせて袖裏、共衿先、裾などに覗くウグイス色の裏地も、丁寧な深みを添えてくれた。

うっすらとした光沢を帯びている袴は、こう見えて デニム素材だ。ＧＯＬＤデニムと呼ばれるブライトデニムの一種で、使い始めは藍の色落ちがあるだろう。 通常のデニムより ハリ・コシが強いので、シルエットもシャープで、妖しげに光を放つとキレ味のあるシャレを見せてくれる。 このキレ味に、デニムらしい素朴さが掛け合わされたハイブリッドな袴である。

ＧＯＬＤな光沢と 野性味のある柄を纏ったコーディネートには、まるで異国に宝を探しにでも行くような、昂ぶる気持ちまで封じ込められていそうである。

ゼブラ・ニットの羽袖

綾に織られた白黒のいびつな縞模様を柔らかく纏わせる和慈羽袖。

和慈羽袖は、羽のように大きな袖を肩や首に掛けたり、或いは後ろに流したりと、大きな布を自在に纏うが如く、着こなしのパターンが無数に生まれる特許製品である。

このゼブラのような白黒の縞を斜めに走らせた表地は、ニットのように柔らかく 太めの糸で織られている。したがって、この大きな袖を 肩へと回し掛けると、ふんわりとして陰影のある立体感も生まれ、ゆったりと美しい。 しかし、白と黒のみの配色なので キレがあり、ぼってりとした野暮ったさは、決して匂わせないのだ。キレ味と優雅さを共存させた逸品と言えるだろう。

また、ニットのように太糸の織物は、衿などで膨らみが生まれ ボテっとしがちだが、それも無い。スッキリ見せたいところはスッキリと仕上がっているのだ。薄い黒の綿裏地を合わせ、ポケットも潜ませている。

ご覧のように、柄ON柄の高難易度な組み合わせだが、無理がなく、エレガントさすら漂わせてくれた。実は、万能な使いやすさがあるのだ。

羽織紐としてコーディネートしたヴィンテージビーズの【かなめ玉・フック】も、そこはかとなくエレガントな方向に誘ってくれている。

ヘリンボーンを したたり合わせ

渋いコットン ヘリンボーンの袴と、グレージュな片身替え小袖との上品なコーディネート。

クラシカルながらも 飽きのこないヘリンボーンが、男性に幅広く高い人気を誇るのも当然と言える。 ヘリンボーンと言えば、大概はウール素材な訳だが、この袴はコットン ヘリンボーンである。 袴のシルエットに力強さを求めるなら、よりハリ・コシの強いコットンのヘリンボーンが好ましい。 そこで、満を持して登場させたのが、この袴なのだ。 ウールに決して負けない織りの緻密さと風合いで、しかも ウールを凌駕するシルエットの美。 待ち望んでいた人も多いのではないだろうか。

ベージュ×グレーの片身替えの小袖も、袴に負けず劣らずな上品さである。 コントラストの緩やかな片身替えは、主張はしても出過ぎない。 細やかに織られて袖山の稜線が美しく、しっとりとした肌触りも気持ちが良いのだ。 特許製品の小袖として、すっきりとしたシルエットや機能性を追求している上に、袖裏、共衿先、裾などに シルバー×黒のストライプを走らせたキレのある裏地を合わせた細工を凝らしているので、優しい色合いでも まったりとしないのだ。

フォーマルにも着られる上品さを持ちながら、上下ともに洗濯可能な扱いやすさも嬉しい利点だ。 上下がお互いを引き立てる、これ以上ない組み合わせになっているので、このままのコーディネートで、ほとんどの場面に着ていただけることだろう。

花ヒョウ柄のマント

ヒョウ柄に似せて 花柄を散らした花ヒョウ柄のマント。裏地には 渋く描かれたトロピカル柄。

よく見れば花柄になっている伽羅色の模様を、黒地の上に まだらに散らして、ヒョウ柄に似せている表地は、丁寧に織られたウール素材で、少し起毛させた しなやかな素材だ。 色目は かなり渋いが、光が当たると その起毛により 妖しげにぼんやりと柄をが浮き上がらせる。 渋い配色の中に 花もヒョウも隠した仕掛けは、緻密に計算された遊び心と品格を備えている。

オウムやヤシの葉を茶・カーキ・黒などで描いた裏地は、トロピカル柄と呼ぶには渋すぎるが、花ヒョウ柄の表に対しても裏勝りな存在感を発揮している。 ややザラついた風合いで、マントが肩からずり落ちるのも防いでくれそうである。表裏共に個性を主張するが、同系色なこともあってか、喧嘩することなく しっくりと纏まっている。 クラシカルなシルエットに加え、手を出すためのホールやボタンなど、マントにとって複雑な箇所から細かな細工まで 手抜かりは無い。

戦国武将が南蛮貿易で手に入れたマントのように、気高さと野性味に溢れている。

ブロック千鳥の風土ローブ

各ブロックごとに 大小異なる千鳥格子を大胆に分配したモノトーンの風土ローブ。

表地には、黒地に大小サイズの異なる白い千鳥格子が それぞれのブロックに染め分けられ、無地の黒となる部分もある。 素材は、しなやかで上質なポリエステルで、さらりとした肌触りである。 漆黒の裏地にも、千鳥格子の紋織りが美しく、千鳥格子尽くしに纏められている。 前立て・袖口の折り返しや、立体的なフードの扱い、風を孕む袖と、いつも通りに迫力ある着姿も そのままだが、この風土ローブは キレ味が増していてカッコイイのだ。

色は白黒のみ、柄も千鳥格子のみと、究極まで削ぎ落としたデザインなのだが、それらを大胆に、アシンメトリーに配しているからだろう。 見てもらえば分かる、着てもらえば心が躍る、そんな風土ローブに仕上がっている。

一言付け加えるとするならば、２点限定生産、再生産もありえないので「早い者勝ち！」である。

ブラックウォッチで したたり合わせ

ブラックウォッチ・タータンチェックの袴と、濃紺の小袖との信頼感漂うコーディネート。

暗い所での方がタータンチェックのグリーンが鮮やかに浮かぶブラックウォッチの袴は、しっかりとしたハリのあるポリエステルで、シルエットも美しい。生地にツヤがあり上品だが、洗濯できる扱いやすさも兼ね備えているのだ。

さらっとした肌触りだが、しっかりとしたハリがある濃紺の小袖は、落ち着いていて飽きがこない。ウール×ポリの素材を単衣仕立てにしてあり、シワになりにくくて ヘビーユーズ向きだ。上品な光沢もあり、フォーマルにも使えることだろう。 すっきりとしたシルエットを追求した特許製品である小袖は、補正の要らない設計や、機能性を追求した裾のカットやポケットの他に、袖口や裾、共衿先には 袴と同じブラックウォッチ素材で 小気味の良い装飾も施されているのだ。

この濃紺を基調とした組み合わせには、制服のような安定感と使いやすさがあり、若々しく品位も保たれるので、いかなる場面でも抜かりなく活用できるに違いない。

裏トラ勝りに 和慈羽袖

ピンクのトラを描いた縮緬を裏地にした、黒衿＋かすれグレーの和慈羽袖。

ライトグレーの縮緬に腕を組んだピンクのトラを描いた裏地が一番の見所になっている、まさに「裏勝り」と呼ぶに相応しい羽袖である。 肩に回し掛けられる程に大きな袖を持つので、トラは 両袖や背中・額裏部と各所に顔を覗かせてくれる。

一方、かすれ模様を効かせた灰色の表地は、密に織られた麻混紡素材で、微かにザラつきを感じる。あまりに渋いので、衿を黒い綿のグログランに替え、キザな雰囲気を醸し出している。 プレーンな羽織スタイルで着ると、昔の任侠映画のようなキザな渋さを漂わせるが、袖を裏返して回し掛けてピンクのトラを遊ばせると、一昔前のロックミュージシャンのような派手さへと様変わりするのだ。

さらに、周囲には見えない部分にも遊びがある。ポケット布をショッキングピンクにしており、意味もなく手を入れたくなるのだ。 ご覧のように、袖のトラを見せつつ ストールのように肩や首にかけながら、脇ポケットに手を突っ込む様は、およそ和服らしからぬ着こなしだが、案外 様になっていないか。 和慈羽袖には、着こなしが まだまだ沢山あることを、自ずと知らしめてくれたのだ。

羽織紐として、メタルのような装飾のビーズと 艶やかな紫のルーサイトのビーズを組み合わせた【かなめ玉・フック】をコーディネート。重厚な印象に引き寄せてみた。

織り千鳥格子の陣パーカ

丁寧に織られたウールの千鳥格子を、同じく千鳥格子の紋織り裏地を合わせた 千鳥格子尽くしな陣パーカ。

表は、柔らかなウールで、ベージュに黒とグリーンで千鳥格子が細密に織り出されている。 全体的には優しい色目で、茶系やグレー系の小袖や袴とは 殊に相性が良い。 控えめな色にクラシカルな素材感は、フードがありながらも、きちんと感が演出されるので、洋装まで幅広く組み合わせられるだろう。

ただし、大人しいだけではない。 立体的な形状のフードに加え、和装でも 手を突っ込みたくなるポケット、前立てを留めるチャイナボタン、千鳥格子の地紋が広がる漆黒の裏地…と細工は上々で、シャレに手抜かりは無い。 前立てを閉じると 印象の変化も際立ち、着こなしを存分に楽しめる仕掛けが 随所に凝らされているのだ。 和装には無い ベストのような軽めの着こなしも可能で、当店の代名詞の１つでもある《和服パーカー》としての一翼を しっかりと担っている。

マーブル ツイードの風土ローブ

マーブル模様を織り成すコットンツイードの風土ローブ。重厚な雰囲気ながら、素朴な風合いを持つ。

この力強いが 力みの無い素材感は、是非にも実物にてご確認いただきたいものである。筆舌に尽くしがたいのだ。 綿のツイードは、ウールでは得られない 少し乾いた底力のようなものを感じさせてくれる。 この風土ローブにも、修道士のローブのように禁欲的な気高さが漂っていないだろうか。

しっかりと打ち込まれネイビーとグレーを掛け合わせたような色の この素材は、表裏で表情が異なる。 表には、みっしりと地紋が広がり 色も少し濃い。裏は、微かに毛羽が立ち 色が薄いのだ。 この風土ローブでは、表の袖口、前立ての裏、フードの縁を裏使いにして、内側から柔らかさが溢れ出しているように見せて仕立てている。 被ったフードの内側から衿先へと微妙に明るさを広げ、開いた袖口からも柔らかさを注いでいるように見せてくれる。 しっかりとした生地なので、ポリウレタンを混紡して柔軟性も保たせている。

ご覧のように、フォーマルよりに合わせても 見劣りせず、デニムあたりに合わせても しっくりと嵌まり、逆にデニムを引き上げてくれることだろう。 要は、これほど控えめを装いながらも、決して引き摺られない底力を持った風土ローブと言えるのだ。 さらに言うなら、丈夫なのでガシガシと着て、クタクタになってこそ 味が出るのだろう。

「和服にパーカーを纏わせたい」という構想により、開業して程なく商品化し、ゼロから １つずつ積み上げてきた新ジャンルの《和服パーカー》だが、ここまで奇抜さを削ぎ落とせれば、更なる新しさが見出せそうである。