Op.10-1 : Real Leather Hakama "Akatsuki"本革袴コーディネート:暁

Detail & Coordinate

10作目の思い

10周年を迎えた滴やが、1年間にわたって新作10作品を発表するこの企画も、いよいよ最後の10作目となった。滴やは、仕入れた物を売る訳ではない。滴やの商品は、滴や自身と滴やの流儀を理解してくれている職人たちの手により製作されている。つまり、滴やの基準を満たす素材を、滴やが追求するフォルムに、滴や独自の工夫を凝らして仕上げている。これは10年前も現在も変わらぬ姿勢であり、そして今後も変えるつもりはない。10周年を迎えるにあたり「パーティとかは?」などとも聞かれたが、集客よりもモノづくりに主眼を置きたいとの思いから、この企画は生まれた。滴やの思いは、滴やのモノにこそ存在する訳だから、滴やとお客さんは、あくまでモノで通じる関係でありたいと考えている。

本革袴への挑戦

さて、10作目である。滴やといえば、やはり袴。袴で始まり袴で終わる!…そして、1作目がフェイクレザーの袴であれば、最終作が本革袴のコーディネートとなることが、この企画の宿命と言える。

しかし、正直なところやりたい企画ではなかった。不確定要素が多過ぎるからだ。

まず、必要な大きさの素材を確保できるか?何の皮革が適しているのか?継ぎ接ぎになるのでは?…という素材の問題である。大半の方は「袴は太いズボンだ」程度に考えていることと思うが、見当違いである。袴1枚(1具)に必要な生地の分量で、ズボンなら4本分以上、スーツなら上下がゆうに作れるだろう。袴のヒダの奥に、それだけ生地が隠れているからこそ、あの迫力ある存在感に仕上がるのだ。布の袴でも大量の生地を要するところを皮革で作る訳だから、重量とコストが気になる。皮革の問屋を回るが、答えは見つからない。不本意ながら、継ぎ接ぎの素材で作ることも考えたが、革の色を揃えるのも困難である。皮革は生き物の皮だから、部位により伸び具合も違う。継ぎ接ぎで袴を作っても、フォルムの美しさが維持できるかは保証の限りでない。結局、大きい革が必要だという答えに至る。

タンナーという仕事がある。「皮」から「革」を作る仕事だ。「皮」は「なめされていない、毛のついた状態の生の表皮」であり、「革」は「皮をなめして腐ったり固くなったりしないように加工したもの」だ。兵庫県姫路市のタンナーを訪ねた。タンナーのM氏が面白がって相談に乗ってくれたおかげで、少しずつカタチが見え始める。結論、革の伸び具合と継ぎ接ぎしないことを考えると、小さい牛の革では作れず、袴1枚当たり最大サイズの牛の革が1.5頭分は必要だと分かった。今回は大きな牛3頭分の革で袴2枚を作ったことになる。バッグなら何個分だろうか。

素材と機能性

次に、滴や規格の袴を革から作ることが本当に可能か?…という素材と機能との相性の問題である。断っておくが、今回作るのは平成23年に特許を取得している滴や独自の袴であり、普通の仕立ての袴ではない。革にはアイロン(コテ)が効かない。つまり、ヒダを作れないので、そもそも革の袴は普通の仕立てでは作れないのである。しかし、これまでにも従来には無かった素材で袴を作ってきた経験から、独自の機能性と形状の滴やの袴であれば、作ることが出来ると思えた。それも、革だから…と機能や製造方法を変えることなく、布の袴とまったく同じフォルムの袴を作ることが出来るはずだと。

ただし、布には可能でも革には出来ない加工も多い。そこは、革の特性を活かすことで対処した。その1つが漉きである。ここでも何度か漉き工場と店を往き来した。

本革袴の縫製

そして最後は、やはり人的問題だ。縫ってくれる職人である。もちろん、袴を縫える職人はいる。革を専門に仕立てる業者も多いだろう。しかし、革の袴を仕立てる職人は皆無なのである。見本を見れば仕立てられるほど、簡単な代物ではないのだ。

縫製は、姫路の職人のIさんに一度は断られながらも頼み込んだ。無事完成にこぎつけたのは、物静かなIさんのひたむきで丁寧な仕事ぶりが頼りに出来たことに尽きるのだ。工房にお邪魔し、滴やが横で組み立て、それを縫ってもらい、また組み立てては縫ってもらうの繰り返し。やはり、革なので布の如く素直にはヒダは作れないし、重なると分厚くもなる。布では味わえない難しい工程が続き、姫路に泊まり込んでの作業となった。革は自然のものなので、慎重に仕立ててもヒダは少し暴れる。当然、小さな傷やスレもある。そういうリアルな迫力が不要ならば、合皮で充分だろう。裾もわざと自然のままに断ちっぱなしで残している。1枚の革をそのまま仕立てた野性味を色濃く残すためだ。

作品の詳細

さて、1作目のコーディネートの詳細に入るとしよう。この袴は、色出しに特に苦労した。タンナーのM氏に複数回染めてもらい、この黒に赤いムラが映える妖しげな色に完成した。注目すべきは腰板部分で、はっきりとした赤い染めムラを、わざと一番に目を引く腰板に模様として配置し、袴全体のアクセントとした。腰板は最も細かい仕事を要する部分で、職人の丁寧な技が詰まっている。また、後ろの紐は野趣あふれる厚めの革の1枚仕立てにした。これは裏革の鮮やかな赤を利用し、紐を結ぶことや捻ることで赤を見せて着こなしの遊びを楽しむためである。言うまでもなく、全体に浮かぶ赤いムラや断ち切りの裾、うねるヒダも底知れぬ迫力を醸し出してくれる逸品に仕上がった。

さらに〈したたり小袖〉も印象的だ。黒地に黒のかすれた柄が浮き出ているのは、ナイロンフロッキー加工の起毛による模様だ。驚くのは、この加工をしなやかなウールに施している珍しさかもしれない。当然ウールの柔らかさは兼ね備えている。

そして、袴と同じ革で袋型のバッグも製作。職人Iさんの丁寧な仕事は体になじむ感覚で分かる。それにしてもこのカタチ、袴によく合うではないか。

【本革袴】
Material牛革 100%
SizeM~2Lの範囲にお仕立て
Price480,000円+税

Number of fabrication(制作数):1点のみ

【したたり小袖】
Material表-毛 100%、裏-キュプラ 100%
SizeMサイズ、Lサイズ
Price45,000円+税
【本革バッグ】
Material表-牛革 100%、裏-ポリエステル 60%、綿 40%
Price28,000円+税

Op.10-2 : Real Leather Hakama "Hayabusa"本革袴コーディネート:隼

Detail & Coordinate

次は、黒のコーディネートである。この企画で最後の作品となる。着物というと、すぐに伝統に結びつける人が多いが、むしろ着物を着ないことが、今では日本の伝統となっているのである。なぜ着ないのか?何が足りないのか?それは、価格なのか?品質なのか?環境なのか?

滴やは「カッコ良さ」が足りないと考えている。それも「苦労を厭わないほどのカッコ良さ」である。この黒の袴には、滴やの「カッコ良さ」を詰め込んでみた。小刻みに歪んで大人しくしていないヒダ、革だった時のままの不揃いな裾、引き締められた厚めで力強い紐…どれも油断すれば元の革の状態に戻ってしまいそうな野性味がある。傷やスレが革特有のヌメッとした底光りする黒の中に紛れ込んでいるリアルさ。究極の色で表情を抑え込まれながらも、生き物であった革の迫力は滲み出て、生ぬるさを感じさせない。そして、これを仕上げるために滴やは苦労を厭わなかったのである。ちなみに画像のマネキンは185センチの身長がある。そんな長身の方にも対応できる袴を本革で作れたことだけでも、製作者としては企画に勝利したと言える。

もちろん、袴が主役なのだが、貫禄が違い過ぎては釣り合いが取れない。〈したたり小袖〉にも化粧を施している。ややストレッチが効いた墨黒の綿系の素材に、いぶし銀な箔プリント。衿の表全面に黒のスタッズをびっしりと配置し、力強さが漲っている。

こちらにも同じ革のバッグがある。バッグの内側には滴やの襦袢の生地を使っている。

「カッコ良さ」の尺度は、人それぞれだ。ただ、和服の「カッコ良さ」を今後も追求し続けることを、滴やはお約束する。モノで通じる瞬間を、これからも楽しみにしている。

【本革袴】
Material牛革 100%
SizeM~2Lの範囲にお仕立て
Price420,000円+税

Number of fabrication(制作数):1点のみ

【したたり小袖】
Material綿 74%、ポリエステル 24%、ポリウレタン 2%、スタッズ:樹脂
SizeLサイズ
Price50,000円+税
【本革バッグ】
Material表-牛革 100%、裏-ポリエステル 60%、綿 40%
Price28,000円+税